アポロニア21
編集長コラム2017

6月号

神戸にある歯のクリーニング&ホワイトニングの専門サロンを取材しました。ひとしきりインタビューが終わった後、「水谷さん、お時間ありますか。施術をぜひ体験してみては?」とのお誘い。お言葉に甘えさせていただきました。

アロマの漂う施術室でのエレガントな接遇は、私がこれまであまり経験したことのないものでした。うがいの水も、ちょっぴりミント味で爽やかです。

クリーニングやホワイトニングの前には、歯石を取らなければなりませんが、施術してくれた歯科衛生士さんには大変な思いをさせてしまいました。全顎にわたって歯石がびっしりと付いていたからです。思えば、かかりつけの歯科医院でスケーリングを受けたのは何年前のことか……。

40分ほどかけて上下の歯石を何とか取り終わった後、舌で歯面を触ってみるとびっくり。何と、これまで「歯」だと思っていたところに大きな隙間が空き、「あれは歯石だったのか」と分かりました。担当の方には「だいぶお久しぶりのようですね」と言われてしまいました。

歯石取りに時間がかかったので、施術する時間はないだろうと思いましたが、さすがはプロ。予定時間ピタリで白い歯にしてくれました。施術も痛くなく、本当に感謝しています。

前号の取材を通じて、ドイツが急速に「予防歯科大国」となっていることが分かりました。保険制度の誘導も功を奏し、スウェーデンを上回る定期受診率になっています。一方、日本では「か強診」をテコに予防的な給付が行われていますが、受診率の向上はまだ途上にあります。ドラスティックな制度改革が難しいのなら、美容サロン的な業態で口腔ケアサービスを広げ、結果として、定期受診につなげるという戦略も考えられるのではないかと感じました。

今回、久しぶりに歯科技工を特集しました。このところ、海外のデンタルショーを中心に、歯科技工やインプラントのデジタル化がもてはやされていることに、若干の違和感を覚えたためもあります。

今回、歯科技工の急速な変化の最前線を取材し、いろいろと見方が変わりました。ご協力いただいた皆様、ありがとうございました。

(水谷)
5月号

お恥ずかしい話ですが、出張先のドイツでパスポートを紛失してしまいました。朝、取材に向かおうとして駅に向かう途中、入れてあったはずの所にパスポートがなく、紛失が判明したのです。宿泊地であるデュッセルドルフの警察署に紛失届を出した3月24日は私の誕生日だったので、忘れられない思い出になりました。

普段は感じないものですが、海外でパスポートを紛失するというのは大変な事態です。パスポートなしでは帰国できないばかりか、自分が何者なのか証明する手段がないからです。取り急ぎ、最寄りの総領事館に相談し、その後、警察署で紛失届(もしくは盗難届)を出してもらう必要があります。幸いだったのは、デュッセルドルフには総領事館があったこと。ケルンなどに宿泊していたら、総領事館に行くだけでも大変だったことでしょう。

総領事館でも警察署でも、「被害がパスポートだけとは考えにくい。本当になくしたのか」と念を押され、ホテルに戻って確認しましたが見つからず、やむなく届けを出すことにしました。

紛失したパスポートを失効させ、帰国のための「渡航書」を発行してもらうためには戸籍謄本が必要です。本来は郵送で総領事館に届くのを待ってから手続するのですが、それでは帰国が大幅に遅れてしまいます。そこで、妻にEMSで戸籍謄本を送ってもらい、さらに戸籍謄本とEMSの宛名書きのコピーをメールで送ってもらうことにしました。

失効手続をすることになって妻に電話したのは、日本時間の17時ごろでしたが、極めて手際良く対応してくれました。その結果、総領事館が休みとなる土日を挟みながらも、わずか2日の遅れで「渡航書」が発行される見通しになりました。

発行には、帰りの便を確定させなければなりませんが、ANAの地上スタッフのご尽力で、これも何とかなりました。

ドイツで一緒だった皆様、インタビューのアポイントのあった方々、申し訳ありませんでした。会社の皆様、ご心配をおかけしました。また、総領事館、警察署、ホテル、空港の皆様、本当にありがとうございました。

(水谷)
4月号

4、5月号の特集は国際化への対応を取り上げます。4月号のメインテーマは、「言葉の通じない外国人の患者さんが受診したらどうすればよいか」です。

現在、訪日外国人が急増し、さまざまな場所で国際交流が生まれています。

神社にも、外国人の参拝者が増えているようで、神社本庁広報国際課課長の岩橋克二氏によれば、東京都内の神社では、平日に参拝する人の約8割が外国人だそうです。彼らの多くは観光地として神社を訪れるのでしょうが、「これを機会に、神道の心に触れてもらいたい」と考える神社関係者も少なくないようです。

しかし、仏教のお寺なら、外国人にも何のための施設かは理解できると思いますが、神社や、そこに祭られている神を、外国人が理解するのは難しい思われます。

まず、神。辞書的にそのまま訳せば「God」になりますが、これはユダヤ教、キリスト教、イスラム教で言うところの「唯一神にして、天地の創造主」という意味であり、神道の神とは似ても似つかないニュアンスになってしまいます。

逆もまたしかりで、19世紀に漢訳聖書を作ろうとした際、「Godや、ヘブライ語のヤハウェの漢訳は、神なのか、上帝(天帝)なのか」が、ほとんど神学論争に近いレベルの問題になったことが知られています。

結果的に漢訳聖書で後者を選択した宣教師たちの判断は、言語学的には正しかったのではないかと思われます。

そして、神社。一般的に「Shrine」を充てますが、これが正しい訳語なのかどうか、岩橋氏が問題提起しています。「Shrineだと、聖人の遺骨や遺物を祭った聖堂の意味になり、神社を誤解させることになる」というのです。日本は、政策的に国際化への道を進んでいますが、このように、「日本人にしかニュアンスが分からないもの」が多いのも事実でしょう。

「神」「神社」を外国人に伝える上での岩橋氏からのアドバイスは、まずは神や神社を自分の言葉で理解し、これを平易な日本語で伝えるようにすることだそうです。「国際化=英語化」ではない、ということです。

(水谷)
3月号

喫煙者への厳しい締め付けが続いています。公共施設内は原則禁煙。密閉された喫煙席を設けられない小規模な飲食店でも禁煙が求められているなど、タバコのみの居場所はどんどん削られてきています。

このような禁煙・嫌煙の動きに対して、一部から「喫煙者への不当な差別だ」「禁煙運動はファシズムと同根だ」などの批判が出るようになりました。事実、喫煙とがんとの間の科学的因果関係を明らかにし、国民運動として最初に禁煙に取り組んだのは、かのナチスでした。

しかし、新大陸からタバコが伝わり、愛煙家が増え始めたころの各国では、さらにすさまじい禁煙政策が取られたそうです。イギリスのジェームズ一世が17世紀はじめに出した「タバコへの挑戦」には、「タバコは土人の習俗である。そんなに土人の習俗が好きなら、愛煙家は土人と同じように裸で過ごせばいいだろう」「タバコは、目にとっては煩わしく、鼻にとっては嫌なもので、頭脳にとっては有害で、肺にとっては危険である」などとあり、実際に高額なタバコ税で愛煙家を圧迫しました。

現在では良質なタバコの産地として知られるトルコでは、主として宗教上の禁欲志向や火災予防の観点から、愛煙家虐殺が行われました。やはり17世紀はじめごろ、オスマン帝国を治めたムラト4世は、変装して街を歩き、喫煙の現場を押さえると即座に首をはねたと伝えられます。喫煙は命がけの行為だったのです。

タバコの特徴は、他の嗜好品と異なり、社会の上流から次第に下降して広がったのではなく、早い段階から庶民の間でも広がったところにあります。これは、17世紀ごろまでタバコを疫病除けの薬とする地域が多かったためだそうです。

これらのエピソードは、技術史家だった東京工業大学・加茂儀一教授が、戦後まもなく『タバコの文化史』にまとめたものです。昭和の時代、どのオフィスでもタバコの煙がもうもうと立っていました。時代は大きく変わったものです。

今回は、医院のM&Aなどの承継を中心に特集をまとめました。齊藤圭先生の連載と、結論が真逆になっているのも注目です。合わせてお読みください。

(水谷)
2月号

1970年代の学園紛争時代に大学院生だったU先生。当時、医学部・歯学部は新左翼系のセクトから「プチ・ブルジョアジー」と見なされ、教室や病院が、ゲバ学生らの襲撃の的になっていたそうです。

U先生ら若手、特に体育会系の猛者に命じられたのは、患者さんや施設をゲバ学生らから守ること。ヘルメットを被り角材を手にした一隊がバリケードの向こうから押し寄せて来るのを、必死に止めなければなりません。

中には、道路の縁石を剥がして院内に投げつけてくる輩もいたそうですが、防御側は石膏模型を投げつけるくらいしか手がありませんでした。U先生は、「投げた模型の中には、貴重な症例を記録したものもあったかもしれない。実にもったいないことをした……」と、今でも悔やんでいらっしゃいます。

体育会系なので先輩後輩の序列は絶対。加えて医学部・歯学部はただでさえ上下関係にうるさいのは周知の事実ですが、場合によっては、ゲバ学生側に立って病院を攻撃する「先輩」に鉢合わせしてしまうこともあったそうです。

防御側の最前線にいた某空手部員は、攻撃側に先輩がいるのを見つけ、襲撃を止めるどころか「押忍!」とあいさつして、そのまま通してしまったとか。後で、こっぴどく叱られたことでしょう。

学園紛争の際、バリケードを挟んでどちら側にいたのかが、歯科医師会などでの立場をはじめとする、その後の歯科医師人生にも大きく影響したようです。

今、ほとんどの大学で、学生運動らしき光景を見なくなりましたが、SNSの利用が増えていることから、おそらく学生たちの「主張」の仕方が変わったののでしょうが、すっかり静かになった母校のキャンパスを通るたび、少し寂しい気もします。

今回の特集では、開業医を中心として13人の歯科医師に、一般の人々に対してどのようなことを、どのようなメディアで発信したのか、その成果はどうだったのかを中心に書いていただきました。ご協力くださった先生方、年末年始に無理なお願いをお引き受けくださり、ありがとうございました。

(水谷)
1月号

あけましておめでとうございます。昨年は大荒れの年で、イギリスのEU離脱、アメリカでのトランプ氏の大統領当選と、年末まで大きな出来事が起こり続けた印象です。

医療界では、非常な高額で薬価収載された抗がん剤『オプジーボ』が話題となりました。歯科でも、歯槽骨欠損に効果があるとされる『リグロス』が、歯科では初めて2万円を超える薬価で保険収載されたのが注目されています。今年は、どのような年になるのでしょうか。

以前、ある先生から「将来は予測したりするものではなく、こう在りたいと目指すものだ」と教えていただいたことがあります。周囲を見渡すと、「こうしたい」という目標が生きる糧になっている方が大勢いらっしゃいます。

そのうち、薬学の立場から、歯科の可能性を広げる取り組みをしているのが、横浜薬科大学の石毛敦薬学部長です。「歯科医療に、もっと漢方薬の使用を広げたい。特に、慢性歯周疾患への十全大補湯の適応拡大は急務だ」と、ある勉強会で語っていらっしゃいました。

十全大補湯は、中国・宋代の医学書『太平恵民和剤局方』を原典とする薬で、虚弱を補い、バランスを整える効果があるとされます。最近では、がん医療にも使用されていますが、石毛氏が注目しているのは、腸管免疫を強める作用だそうです。同大では、マウスによる実験で、十全大補湯の投与によってヒートショックプロテインの発現が抑えられることを実証しています。腸内細菌叢のバランスを整えることから、歯周疾患の重症化予防にも効果が期待できるかもしれません。

「この漢方薬は保険で使えるか?」には地域差もあるようで、現場での実績の積み上げが必要ですが、歯科以外の所で歯科医療を「面白くする」研究が進んでいるのは心強いことです。

今回の特集は、自院の特徴をどのように訴求するかをテーマに、さまざまなアイデアを探してみました。取材先で共通して教えられたのは、「患者さんを集める工夫をするだけではダメ。患者さんが安心・満足できるよう、院内体制の改善が先だ」ということでした。地道な努力が、結局は早道ということでしょうか。

(水谷)